書くことの秘儀
小説を創るということは、恐ろしいことであり、畏るべきことであるという認識を大切にする作家である。のんべんだらりと書くエッセイと違い、書く途中の緊張の度合い(血圧・アドレナリンの濃度)も異なる。小説家は評論家ではないのだから、原稿に書き、実現させなければ何の意味もない。本書はそれを承知の上で、あえて小説を書くことの極限的意義を問うている。
曰く「悲劇的仕事=書くこと」(マルグリット・デュラス)から発して「書くこと=秘儀」(本書著者のキーワード)とみてとることが、最も大切なことと思われる。
難解で実験的なヌーヴォーロマンを書いてきた作家も七十歳になると、少女時代のスキャンダラスな告白的私小説「愛人」を書いたことに関連しての論である。今世紀最高の50ヶ国以上の翻訳譲渡権をもつフランス文学であるが、この作品に親近感をもつのは、植民地で育った著者と共通感覚があるためらしい。植民者(コロン)の引け目・不条理を逆手にとって、愛の本性を書いていることである。
作家にとって書くことは、自分の奥にあるものを呼び起こし、意識することである。それは運命的、神秘的とまでは言えなくても、なにか「秘儀」に類することのようである。書かずにはいられないものに憑かれたように書く。生きることには様々な意味を付与することができようが、「生きるとは書くこと」である人の宿命を論じて、緊張感の漂う格調高い一書である。
曰く「悲劇的仕事=書くこと」(マルグリット・デュラス)から発して「書くこと=秘儀」(本書著者のキーワード)とみてとることが、最も大切なことと思われる。
難解で実験的なヌーヴォーロマンを書いてきた作家も七十歳になると、少女時代のスキャンダラスな告白的私小説「愛人」を書いたことに関連しての論である。今世紀最高の50ヶ国以上の翻訳譲渡権をもつフランス文学であるが、この作品に親近感をもつのは、植民地で育った著者と共通感覚があるためらしい。植民者(コロン)の引け目・不条理を逆手にとって、愛の本性を書いていることである。
作家にとって書くことは、自分の奥にあるものを呼び起こし、意識することである。それは運命的、神秘的とまでは言えなくても、なにか「秘儀」に類することのようである。書かずにはいられないものに憑かれたように書く。生きることには様々な意味を付与することができようが、「生きるとは書くこと」である人の宿命を論じて、緊張感の漂う格調高い一書である。