これは、単なる“ミステリー”の括りに入れてしまうと、強烈なシッペ返しを食うこと請負の、一種独特のムードを持った傑作だ。南仏の陽光眩しい風情豊かな別荘を舞台に、実生活に空虚さと性的不満を抱える初老の女流人気ベストセラー作家が、ビジネス・パートナーにして愛人でもある出版社社長の娘で、奔放に生きながらも影のある若く魅力的な女性と出逢い、曖昧でアンビバレントな感情を抱く。殺人も起こるが、彼女の微細な感情の揺れ動きこそが、ミステリアスで今作の一番の見所だ。青く澄んだ水を湛えたプールは、女性の“性”と“若さ”を象徴している様に思え、彼女の欲求と羨望を表す心象風景として、それが何度かインサートされるのが印象的だ。リュディヴィーヌ・サニエの、その美しい肢体と脚線美に目眩みつつ、シャーロット・ラン
プリングの、静的で抑制されたものの、その圧倒的な存在感は、L・ヴィスコンティ、L・カヴァーニ、W・アレン、大島渚、S・ルメット、J・ブアマンら名監督に指名され、さすが世界を股に駆けて活躍してきた名女優と思わせる。それにしても、舞台となった南仏の別荘とその周辺の街並と自然の素晴らしさは、是非ともバカンスで行ってみたいと思わせる佇まいだ。