死刑執行人もまた死す《IVC 25th ベストバリューコレクション》 [DVD]
43年製作公開。天才フリッツ・ラングが米国で製作した大傑作。反ナチ・プロパガンダ映画に名を借りた、極めて上質のサスペンス・スリラーである。
物語は42年にチェコスロヴァキア副総督のラインハルト・ハイドリッヒが暗殺されたことによって、犯人探しをするゲシュタポと必死の抵抗をするプラハ市民たちの丁々発止のせめぎ合いを描く。ただしハイドリッヒ暗殺は紛れもない歴史の事実であるが、史実と本作の物語は全く異なる。そこでちょっと蘊蓄を垂れさせていただくと、実際の犯人は英国の特殊工作員で、当時犯人逮捕に莫大な懸賞金がかけられたので彼らをかくまったチェコ人の家族が密告されると犯人たちの居場所も知られ、包囲された犯人たちは銃撃戦で射殺されたり自決したり、と言うもの。つまり本作は史実を忠実に再現するというものではなく、ハイドリッヒ暗殺をネタにした反ナチ映画兼娯楽映画、という立ち位置になるだろう。この事件を扱った他の作品には75年の米国映画「暁の七人」がある。こちらの方が史実を忠実に再現しているのだが、絶望的な展開と悲惨なラストは思い出すのも辛い(涙)。
そして本作である。最初から最後まで緊張感に溢れるサスペンスの連続で、ヒッチコック風といえばそうなるが、ヒッチコックよりももっと語り口が男性的でメリハリがあって、ケレン味がない!しかも43年の製作と言うこともあって、暴力シーンや殺人のシーンは必要最小限に留められて、脚本の妙味と演出の斬新なアイディアと切れ味だけで2時間10分余り、全く観る者を飽きさせないのは奇跡的と言っても良い。本作では未見のかたのためにネタバラシをしたくないが、ラスト30分で繰り広げられる多数の市民協力による「犯人でっち上げ作戦」は全くの見ものである!!
配役も絶妙。医師のスヴォボダ役のブライアン・ドンレヴィの誠実さ、ヒロインのアンナ・リーの凛とした美しさ、グリューバー警部のアレクサンダー・クラナッハの薄汚さと腹黒さ、そしてゲシュタポの取り調べ官をちょっとコミカルに演じるラインハルト・シュエンツェル、ゲシュタポに内通するチャカのジーン・ロックハートの名演技、そして個人的にイチオシは、マジメな役も堂々たるものがある、ノヴォトニー教授のウォルター・ブレナンか(笑)。とにかく月並みな言い方しかできないが、本作は面白すぎる。未見の自称映画ファンは直ちに観ないと損しますよ、と声を大にして言いたい。
ここでまた余談。監督のフリッツ・ラングはユダヤ人である。ナチスが政権を獲った33年からドイツ映画界に沢山いたユダヤ人の殆どが追放されたが、ナチス宣伝相ゲッベルスはラングの大ファンで、才能も高く評価していたそうだ。そこでラングに面会して「君を迫害はしない。名誉アーリア人として厚遇するのでドイツに残って映画を作ってくれ」とお願いしたが、それを聞いたラングはなんとその日のうちに列車に飛び乗って国外に亡命してしまったそうである(笑)。
物語は42年にチェコスロヴァキア副総督のラインハルト・ハイドリッヒが暗殺されたことによって、犯人探しをするゲシュタポと必死の抵抗をするプラハ市民たちの丁々発止のせめぎ合いを描く。ただしハイドリッヒ暗殺は紛れもない歴史の事実であるが、史実と本作の物語は全く異なる。そこでちょっと蘊蓄を垂れさせていただくと、実際の犯人は英国の特殊工作員で、当時犯人逮捕に莫大な懸賞金がかけられたので彼らをかくまったチェコ人の家族が密告されると犯人たちの居場所も知られ、包囲された犯人たちは銃撃戦で射殺されたり自決したり、と言うもの。つまり本作は史実を忠実に再現するというものではなく、ハイドリッヒ暗殺をネタにした反ナチ映画兼娯楽映画、という立ち位置になるだろう。この事件を扱った他の作品には75年の米国映画「暁の七人」がある。こちらの方が史実を忠実に再現しているのだが、絶望的な展開と悲惨なラストは思い出すのも辛い(涙)。
そして本作である。最初から最後まで緊張感に溢れるサスペンスの連続で、ヒッチコック風といえばそうなるが、ヒッチコックよりももっと語り口が男性的でメリハリがあって、ケレン味がない!しかも43年の製作と言うこともあって、暴力シーンや殺人のシーンは必要最小限に留められて、脚本の妙味と演出の斬新なアイディアと切れ味だけで2時間10分余り、全く観る者を飽きさせないのは奇跡的と言っても良い。本作では未見のかたのためにネタバラシをしたくないが、ラスト30分で繰り広げられる多数の市民協力による「犯人でっち上げ作戦」は全くの見ものである!!
配役も絶妙。医師のスヴォボダ役のブライアン・ドンレヴィの誠実さ、ヒロインのアンナ・リーの凛とした美しさ、グリューバー警部のアレクサンダー・クラナッハの薄汚さと腹黒さ、そしてゲシュタポの取り調べ官をちょっとコミカルに演じるラインハルト・シュエンツェル、ゲシュタポに内通するチャカのジーン・ロックハートの名演技、そして個人的にイチオシは、マジメな役も堂々たるものがある、ノヴォトニー教授のウォルター・ブレナンか(笑)。とにかく月並みな言い方しかできないが、本作は面白すぎる。未見の自称映画ファンは直ちに観ないと損しますよ、と声を大にして言いたい。
ここでまた余談。監督のフリッツ・ラングはユダヤ人である。ナチスが政権を獲った33年からドイツ映画界に沢山いたユダヤ人の殆どが追放されたが、ナチス宣伝相ゲッベルスはラングの大ファンで、才能も高く評価していたそうだ。そこでラングに面会して「君を迫害はしない。名誉アーリア人として厚遇するのでドイツに残って映画を作ってくれ」とお願いしたが、それを聞いたラングはなんとその日のうちに列車に飛び乗って国外に亡命してしまったそうである(笑)。
死刑執行人もまた死す[完全版] [DVD]
ナチ占領下のプラハで、「死刑執行人」と呼ばれるナチ高官が暗殺される。
ナチは報復として、犯人が名乗り出るまで市民を処刑するという暴挙に
出るが…。
時の宣伝相ゲッペルスに映画部門責任者への就任依頼を受け、アメリカ
へと亡命した経緯を持つラング(彼自身はユダヤ人)による、悪夢的ムー
ドで描かれる反ナチ・サスペンスの傑作。名手ジェームズ・ウォン・ハ
ウによる光と陰のコントラストの強い撮影が、プラハの町並みを出口の
ない迷路のような印象にしている。加えて、ラングの畳み掛けるような
サスペンス演出と生々しい暴力描写がより不安感を煽る。
映画史的には、アメリカに亡命中だった劇作家ブレヒトの原案・脚本で
あることも有名で、「Aに話せば、やがてB、Cに伝わり、最!後!にはG(ゲ
シュタポ)にたどり着く」というウォルター・ブレナンの名セリフは、彼
のアイデアによるものだそうだ。
キャスティングも相当異色で、小悪党的な役が多かったブライアン・ド
ンレヴィを主役に、気のいい人物役のジーン・ロックハートを悪役に据
えたあたりは、ラングの意欲のあらわれといえる。
本DVDは、かつて劇場公開され、その後ヴィデオ・LDで発売された120分
版より約20分も長い完全版。それ自体で、大変意味のあるDVDなのだが、
残念ながら画質があまりよくない。99年、東京の三百人劇場で行われた
「フリッツ・ラング映画祭」での上映プリントをそのまま使っているせい
だろう。
ナチは報復として、犯人が名乗り出るまで市民を処刑するという暴挙に
出るが…。
時の宣伝相ゲッペルスに映画部門責任者への就任依頼を受け、アメリカ
へと亡命した経緯を持つラング(彼自身はユダヤ人)による、悪夢的ムー
ドで描かれる反ナチ・サスペンスの傑作。名手ジェームズ・ウォン・ハ
ウによる光と陰のコントラストの強い撮影が、プラハの町並みを出口の
ない迷路のような印象にしている。加えて、ラングの畳み掛けるような
サスペンス演出と生々しい暴力描写がより不安感を煽る。
映画史的には、アメリカに亡命中だった劇作家ブレヒトの原案・脚本で
あることも有名で、「Aに話せば、やがてB、Cに伝わり、最!後!にはG(ゲ
シュタポ)にたどり着く」というウォルター・ブレナンの名セリフは、彼
のアイデアによるものだそうだ。
キャスティングも相当異色で、小悪党的な役が多かったブライアン・ド
ンレヴィを主役に、気のいい人物役のジーン・ロックハートを悪役に据
えたあたりは、ラングの意欲のあらわれといえる。
本DVDは、かつて劇場公開され、その後ヴィデオ・LDで発売された120分
版より約20分も長い完全版。それ自体で、大変意味のあるDVDなのだが、
残念ながら画質があまりよくない。99年、東京の三百人劇場で行われた
「フリッツ・ラング映画祭」での上映プリントをそのまま使っているせい
だろう。