2013/5/24読了。
一言で言って力作。一つの物事に複数者の視点を当てたり、一族の逸話まで追い駆けたりして、デュランの伝説に彩られた人生を余すところなく描いている。
ところで、ラテンの人間に限らない事と思うが、途上国で満足な教育を受けていない人間は嘘を吐く事が多い。恐らく、嘘を吐いている認識さえないのではないか。この『ロベルト・デュラン "石の拳" 一代記』も、(特に前半は)まるでガルシア・マルケスの小説のように虚と実が入り混じった世界観で進んでいく。しかし、ボクシングファンだったら多くが知っている「伝説」、ミドル級の世界ランカーをスパーリングでぶっ倒したとか、或いは馬を殴り倒したとか、そういった事がどうやら事実らしいと分かると、デュランの存在自体に圧倒され、そこに完全なリ
アリズムが成立してしまう。
デュランってのは本当にラテンの男。僕のような
九州の男には分かり易いんだが、太っ腹だったり喧嘩っ早かったり友達思いだったりという特有のマチズモが、またデュランの場合は強烈。しかし、そのような強烈な男らしさの中には、また反面の女々しさがある(これも僕のような
九州の男は至る所で散見出来る)。ストーリーの前半、デュランのキャリアが上向きな時期にはこの男らしさも際立ってカッコいいが、「NO MAS」事件以降はその反面の女々しさも目立ってイラついてしまう。「ラテンの英雄」としての前半から、後半は「人間デュラン」としての存在が明確になってくるのだ。
「特有のマチズモ」と書いたが、そのスケールの大きさを堪能して欲しい。杉浦大介氏の翻訳も良い。
タイトルも好き。意外だったのは、レイ・アーセルの扱いの小ささ。しかしチャフランやエレタ、或いはケン・ブキャナンなどの脇役も良い味出してる。特にチャフランは好き。