恐怖の総和〈下〉 (文春文庫)
2001年9月11日の事件は映画でしか考えられない場面が次々と私達を襲いました。事件当夜、トム・クランシーの読者は事態がこれ以上小説に沿って悪化しないことを祈りながらテレビの前を離れられなかったのではないでしょうか。奇しくも「日米開戦」が事件の原型となったことがこの本を手にとるきっかけとなった方もおありでしょう。
クランシーは長年に渡り数多くのベストセラーを世に送り出してきましたが、それぞれの小説の中心となる大きなテーマをおなじみの役者を巧みに使って描いていくことで、それぞれの作品に一冊の本だけでは成し遂げ得ないほどの内容の厚みをで持たせるというに成功している作家です。この特殊技法ではそれぞれの作品が独立性を持ちながらも、登場人物が再登場したり過去の事件が言及されても、以前の作品を読んでいなくとも話しがつながるように簡単な解説の文章が添えられます。それでも読者をしてほかの作品をも読ませようという技法はやはりベストセラー作家だとあらためて納得さえさせられます。
前置きが長くなりましたが「恐怖の緩和」は「レッドオクトーバーを追え」、「愛国者のゲーム」、「いまそこにある危機」のちょっと古い3本のヒット映画と「日米開戦」、「合衆国崩壊」の空間を埋めるパズルの一角のような作品です。いいかえれば、「レッドオクトーバーを追え」では20代後半だった若者のジャック・ライアンが大統領職も板について2期目に入った「ベアとドラゴン」の丁度中間点に位置する作品で、ライアンの成長過渡期の姿が描かれています。若くして経済的にも成功し頭脳明晰で頼りになる友達も多いライアンが、人間性に欠ける上層部のいやがらせから不合理に苦境にたたされるところは読者としても憤りを感じますが、これが底力となって物語をどんどん緊迫した雰囲気にもっていくところは豪快でどんどん読み進めます。
ライアン虐待首謀者はエリザベス・エリオット国家安全保障問題特別補佐官。現在女性でほかの閣僚に比べれば若くてきれいな国家安保補佐官と言えば浮かぶのはライス女史。エリオット女史がベニングトンの教授ならこちらはスタンフォード大学の学長という経歴をお持ち。ライス女史はブッシュ・シニア時代のお友達の返り咲き的なブッシュ・ジュニアの閣僚の中では一応評価は受けていますが実はシニア時代にも補佐官を務めた経験があるそうです。クランシーはここからヒントを得たのか?大統領とエリオット補佐官は公然とは知られていませんがベッドをともにする間柄。大統領はやもめで、補佐官はオールドミス。外交訪問のエアフォース・ワンの寝室に女性を連れこむなどちょっとクランシー小説では見られないタッチもありますが、これもお膳立てのひとつなのでしょう。
上記の映画3部作は見ましたが、本はまだで今回「愛国者のゲーム」、「いまそこにある危機」、「恐怖の緩和」が一冊にまとまったハードカバーを読みました。それぞれ映画以上の気迫は間違いなし。「恐怖の緩和」もおすすめですが、できれば三部作を順番に読まれてクランシー小説の醍醐味を存分に味わうのが一番のお薦めです。
クランシーは長年に渡り数多くのベストセラーを世に送り出してきましたが、それぞれの小説の中心となる大きなテーマをおなじみの役者を巧みに使って描いていくことで、それぞれの作品に一冊の本だけでは成し遂げ得ないほどの内容の厚みをで持たせるというに成功している作家です。この特殊技法ではそれぞれの作品が独立性を持ちながらも、登場人物が再登場したり過去の事件が言及されても、以前の作品を読んでいなくとも話しがつながるように簡単な解説の文章が添えられます。それでも読者をしてほかの作品をも読ませようという技法はやはりベストセラー作家だとあらためて納得さえさせられます。
前置きが長くなりましたが「恐怖の緩和」は「レッドオクトーバーを追え」、「愛国者のゲーム」、「いまそこにある危機」のちょっと古い3本のヒット映画と「日米開戦」、「合衆国崩壊」の空間を埋めるパズルの一角のような作品です。いいかえれば、「レッドオクトーバーを追え」では20代後半だった若者のジャック・ライアンが大統領職も板について2期目に入った「ベアとドラゴン」の丁度中間点に位置する作品で、ライアンの成長過渡期の姿が描かれています。若くして経済的にも成功し頭脳明晰で頼りになる友達も多いライアンが、人間性に欠ける上層部のいやがらせから不合理に苦境にたたされるところは読者としても憤りを感じますが、これが底力となって物語をどんどん緊迫した雰囲気にもっていくところは豪快でどんどん読み進めます。
ライアン虐待首謀者はエリザベス・エリオット国家安全保障問題特別補佐官。現在女性でほかの閣僚に比べれば若くてきれいな国家安保補佐官と言えば浮かぶのはライス女史。エリオット女史がベニングトンの教授ならこちらはスタンフォード大学の学長という経歴をお持ち。ライス女史はブッシュ・シニア時代のお友達の返り咲き的なブッシュ・ジュニアの閣僚の中では一応評価は受けていますが実はシニア時代にも補佐官を務めた経験があるそうです。クランシーはここからヒントを得たのか?大統領とエリオット補佐官は公然とは知られていませんがベッドをともにする間柄。大統領はやもめで、補佐官はオールドミス。外交訪問のエアフォース・ワンの寝室に女性を連れこむなどちょっとクランシー小説では見られないタッチもありますが、これもお膳立てのひとつなのでしょう。
上記の映画3部作は見ましたが、本はまだで今回「愛国者のゲーム」、「いまそこにある危機」、「恐怖の緩和」が一冊にまとまったハードカバーを読みました。それぞれ映画以上の気迫は間違いなし。「恐怖の緩和」もおすすめですが、できれば三部作を順番に読まれてクランシー小説の醍醐味を存分に味わうのが一番のお薦めです。
オリジナル・サウンドトラック「トータル・フィアーズ」
もう70歳を超えるジェリー・ゴールドスミスの音楽はさすがに色あせない。独特のパーカッションを生かした曲調は映画のサスペンスを最高潮に盛り上げてくれる相変わらずのパワーは健在だ。2002年には日本でこれまでの担当した作品を集めたコンサートをするが、ぜひCD化してほしい。
トータル・フィアーズ ― スペシャル・コレクターズ・エディション (初回生産限定版) [DVD]
平和という理念が、自国の防衛あってこそという極論はいかがなものだろう?
無論、国家が存続するためには絶対必要条件なのだが・・・。
この作品で注目すべきは、その平和というものが核によって維持されているという最悪のイデオロギーの存在だ。
自国の防衛→軍隊の強化→核による抑止力。
この考え方は背筋が寒くなる。
だがこれが現実。
この映画を見ることで、今一度、平和とは何か、核兵器とは何かを一考するきっかけになればと思う。
無論、国家が存続するためには絶対必要条件なのだが・・・。
この作品で注目すべきは、その平和というものが核によって維持されているという最悪のイデオロギーの存在だ。
自国の防衛→軍隊の強化→核による抑止力。
この考え方は背筋が寒くなる。
だがこれが現実。
この映画を見ることで、今一度、平和とは何か、核兵器とは何かを一考するきっかけになればと思う。
恐怖の総和〈上〉 (文春文庫)
この作品は映画にもされたけどは、トムクライシーものには珍しく、小説も、
良くできた映画の方も、意外に意外に人気が出ず、不思議に思った。
確かに、この小説はのプロットは相当難解なところがあったが、終盤のクライ
マックスの迫力は、とにかくもう本を手放させなくなる(その意味で、これは
「上」のレビューだけど、絶対に「下」まで行って欲しいと思うんですね)。
この作品は、核の恐怖、と言うより、人間の猜疑心の連鎖が超大国の間で起る
ことの怖さとてもうまく描いていると思う。
ただ、原作の題名(「恐怖の総和」)も、映画の邦題(まんまの、「トータル・
フィアーズ」も、微妙になんのことかわからない、と言うところがちょっと一般
受けしなかったのか。
僕は、これは「愚か者の論理」か、「猜疑心の連鎖」の感じかな、と思います。
とにかく、そのちょっと取っつきにくい邦題にかかわらず、この作品はポリティ
カルサスペンス、ウォーゲーム、近未来サペンス。。。様々な方向から一級の娯
楽性を持ちながら、今の我々の危ういパワーバランスの世界が、余すことなく描
かれる、これはおすすめの作品です。
ちょっと題名のことで、☆一個減らしています。
良くできた映画の方も、意外に意外に人気が出ず、不思議に思った。
確かに、この小説はのプロットは相当難解なところがあったが、終盤のクライ
マックスの迫力は、とにかくもう本を手放させなくなる(その意味で、これは
「上」のレビューだけど、絶対に「下」まで行って欲しいと思うんですね)。
この作品は、核の恐怖、と言うより、人間の猜疑心の連鎖が超大国の間で起る
ことの怖さとてもうまく描いていると思う。
ただ、原作の題名(「恐怖の総和」)も、映画の邦題(まんまの、「トータル・
フィアーズ」も、微妙になんのことかわからない、と言うところがちょっと一般
受けしなかったのか。
僕は、これは「愚か者の論理」か、「猜疑心の連鎖」の感じかな、と思います。
とにかく、そのちょっと取っつきにくい邦題にかかわらず、この作品はポリティ
カルサスペンス、ウォーゲーム、近未来サペンス。。。様々な方向から一級の娯
楽性を持ちながら、今の我々の危ういパワーバランスの世界が、余すことなく描
かれる、これはおすすめの作品です。
ちょっと題名のことで、☆一個減らしています。