フロム・ヘル
ズンと腹に来る重低音。黒澤映画や、かつてのソ連映画を思わせる、重々しく暗い音の流れに、すすり泣くような哀しい旋律。
この映画の中では、恐ろしさを演出する曲までが、内に哀しさを秘めている。それは、最近の、底の浅い印象しか持てないアメリカ映画の中では、驚くほど特殊だ。
音楽がこの「フロムヘル」の、あまり上出来といえない悲しいラブストーリーを、感動的な自己犠牲の美しいラブストーリーに変えて、しかも一種の品格まで添えている。この映画を単なるホラーにしてしまわなかった、トレバー・ジョーンズの力量は、アカデミー賞に値する。
この映画の中では、恐ろしさを演出する曲までが、内に哀しさを秘めている。それは、最近の、底の浅い印象しか持てないアメリカ映画の中では、驚くほど特殊だ。
音楽がこの「フロムヘル」の、あまり上出来といえない悲しいラブストーリーを、感動的な自己犠牲の美しいラブストーリーに変えて、しかも一種の品格まで添えている。この映画を単なるホラーにしてしまわなかった、トレバー・ジョーンズの力量は、アカデミー賞に値する。
フロム・ヘル [DVD]
エンディングの曲がマリリン・マンソンとは・・・全然知らなかったので嬉しくも驚くが、考えれば彼らほどこの映画に似合うアーティストはいないと納得。曲は「THE NOBODIES」。アルバム収録のオリジナルに比べ、シンプルながらも重厚さが増したこのナンバーは映画の最後を飾るにふさわしい名曲だ。映画の方も実に素晴らしい!ジョニー・デップ主演で最高傑作ではないかと思うくらい。謎が謎を読んだ未解決の殺人事件。「切り裂きジャック」に関する推測は数多くあるが、この映画の解釈もその1つ。その説得力のすごさに興奮を隠しきれない。監督のヒューズ兄弟の演出が光りまくり、そのセンスの良さが際立っていた。映像美の美しさはリドリー・スコットを思わせ、徹底した箱庭感覚の1888年のロンドンなどは、ティム・バートンを彷彿とさせる。話の見せ方も上手い。また素晴らしい兄弟監督の誕生のようだ。文句なしの傑作。
フロム・ヘル 上
ジョニーデップ主演、ティム・バートン監督で映画化された本作ですが、原作であるこの本はアラン・ムーアの精密な妄想が爆発した作品であり、映画はまったく別物と考えたほうがいいです。
オカルト、神秘学、マスメディア、秘密結社、格差社会、差別、犯罪、パラノイアといった様々なキーワードを「切り裂きジャック」という事件にぶち込み、描写する力量はまさに圧倒的。ウォッチメンやスワンプシングなどでもわかるようにムーアの作品はいろいろな意味で濃いですが、これはあまりにも濃厚で、映画の原作、または普通の漫画、切り裂きジャックを題材にした推理モノと思って手に取ると、その溢れかえる情報量やストーリーに拒否反応を起こしてもおかしくないと思います。
ですが、何度も繰り返し読み返していくうちに、スルメのように味が出てきて中毒になる不思議な作品で、やはりアラン・ムーアの桁外れの技量を思い知らされる傑作です。興味を持たれた方やウォッチメンなどでファンになった方は、是非、この本を辛抱強く読み進めてみてください。
オカルト、神秘学、マスメディア、秘密結社、格差社会、差別、犯罪、パラノイアといった様々なキーワードを「切り裂きジャック」という事件にぶち込み、描写する力量はまさに圧倒的。ウォッチメンやスワンプシングなどでもわかるようにムーアの作品はいろいろな意味で濃いですが、これはあまりにも濃厚で、映画の原作、または普通の漫画、切り裂きジャックを題材にした推理モノと思って手に取ると、その溢れかえる情報量やストーリーに拒否反応を起こしてもおかしくないと思います。
ですが、何度も繰り返し読み返していくうちに、スルメのように味が出てきて中毒になる不思議な作品で、やはりアラン・ムーアの桁外れの技量を思い知らされる傑作です。興味を持たれた方やウォッチメンなどでファンになった方は、是非、この本を辛抱強く読み進めてみてください。
エ/ヱヴァ考
エヴァの批評というと、心理学やポストモダンの話になって「面白いけど、エヴァから離れすぎじゃね?」と思うことも多かったですが、この本は監督や関係者のインタビュー、エヴァの企画書、ナウシカ漫画版などを使ってエヴァのテーマを読み解くという、本編に密着した正攻法のエヴァ批評本だと思います。
内容としては
・第一話の成立過程から、登場人物達の人間関係やキャラが持っているテーマを読み解く
・ノーチラス号と第三新東京市の対比(ここは素晴らしいです!)
・1話から中盤までのシンジの成長、その後の試行錯誤
・エヴァ終盤でなぜ登場人物たちの成長が困難なのか
・新劇場版について
と個人的には読みました。違うかもしれないですが…。
あと個人的に面白かったのは、宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』におけるエヴァ評の文章がおかしいことを指摘するところ。また文章だけでなく、エヴァの作品のテーマも読み誤っているをことを葛城ミサトのセリフを引用して批判するところは見事だと思います。
あと大部分はTV版エヴァについての本なので、新劇場版しかみていない人はDVDで観てから読んだほうが良いです。
それとエヴァQ公開の前に発売された本なので、Qについての話はないです。
内容としては
・第一話の成立過程から、登場人物達の人間関係やキャラが持っているテーマを読み解く
・ノーチラス号と第三新東京市の対比(ここは素晴らしいです!)
・1話から中盤までのシンジの成長、その後の試行錯誤
・エヴァ終盤でなぜ登場人物たちの成長が困難なのか
・新劇場版について
と個人的には読みました。違うかもしれないですが…。
あと個人的に面白かったのは、宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』におけるエヴァ評の文章がおかしいことを指摘するところ。また文章だけでなく、エヴァの作品のテーマも読み誤っているをことを葛城ミサトのセリフを引用して批判するところは見事だと思います。
あと大部分はTV版エヴァについての本なので、新劇場版しかみていない人はDVDで観てから読んだほうが良いです。
それとエヴァQ公開の前に発売された本なので、Qについての話はないです。
フロム・ヘル 下
アラン・ムーア一流のストーリーテーリングを味わえる最高の書。
最初はちょろっととっつきにくいかもしれませんが、
一度夢中になればもう、睡眠不足は確約されたようなものです。
前知識が必要、と言われがちですが、実のところネットレベルで構わないので
切り裂きジャック事件の大筋を押さえておけば、お話自体の理解にはさほどの支障はないかと。
無論そこをも遥かに超えた奥深さを味わい尽くすには様々な知識を前提とする部分もありますが、
しかしあくまでも物語そのものを味わう分にはそこまで極端なハードルはないと思いますし、
まずはその味わい方で十分、値段分はペイすると思います。
最初はちょろっととっつきにくいかもしれませんが、
一度夢中になればもう、睡眠不足は確約されたようなものです。
前知識が必要、と言われがちですが、実のところネットレベルで構わないので
切り裂きジャック事件の大筋を押さえておけば、お話自体の理解にはさほどの支障はないかと。
無論そこをも遥かに超えた奥深さを味わい尽くすには様々な知識を前提とする部分もありますが、
しかしあくまでも物語そのものを味わう分にはそこまで極端なハードルはないと思いますし、
まずはその味わい方で十分、値段分はペイすると思います。