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赤目四十八瀧心中未遂
内臓にしみた。「車谷長吉」という気になる名前と不思議なタイトルに引かれて手に取った。日本的などろどろとした体液にまみれている内容であるが、文章はさらりとしている。そのアンバランスさが我々の深淵に響いてくるのであろう。
「私小説」作家であるようであるが、そんなことは気にしないで感じ取ってほしい。落ちていく主人公と自分を重ね合わせてみることで感じることも見えてくることもある。
「私小説」作家であるようであるが、そんなことは気にしないで感じ取ってほしい。落ちていく主人公と自分を重ね合わせてみることで感じることも見えてくることもある。
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塩壷の匙 (新潮文庫)
直木賞受賞作品が「赤目四十八瀧心中未遂」であることはAmazonで知ったが、本作品集で十分に車谷ワールドを堪能できるのでは、と想像する。
「この作品で必ず芥川賞が受賞できる」
このように確信して書き上げた作品がすべて収納されているからだ。
「塩壷の匙」を渾身の力で成し遂げたというのに、結果は落選。作者は精神状態まで狂ってしまったくらいだという。
ビジネス系の人生指南書のノウ天気さに比べ、どうして小説ってどれも重く暗く悪徳なんだ? 親鸞の悪人正機説「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」をつぶやかざるを得ない。その真骨頂が本書といえよう。
車谷のこだわった私小説だが、太宰治を読んだときのような脳髄の痺れる錯角は生じなかった。それは車谷の「私小説」には甘味がなかったからだろう。ひたすら自分の地盤を掘り続け、出てくるのは胞子臭い土だけで、たまに奇態な地虫が姿を現すだけ。
しかし、それがむしょうに読みたくなる年齢というものがある、ひたひたと背後に迫ってくる破局の日に備えて。
「このごろハムだらソーセージたら言うもんが出来とうやろ、人間ほどむごいもんはあらへん、牛でも鶏でもあないなもんにしてしもて、平気で喰うて行くんやが。(「塩壷の匙」)」
私も全くそう感じているのだが、やっぱりおいしくいただいてしまうのである。本書も、まだ残されている平和な日常で堪能させてもらった。
「この作品で必ず芥川賞が受賞できる」
このように確信して書き上げた作品がすべて収納されているからだ。
「塩壷の匙」を渾身の力で成し遂げたというのに、結果は落選。作者は精神状態まで狂ってしまったくらいだという。
ビジネス系の人生指南書のノウ天気さに比べ、どうして小説ってどれも重く暗く悪徳なんだ? 親鸞の悪人正機説「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」をつぶやかざるを得ない。その真骨頂が本書といえよう。
車谷のこだわった私小説だが、太宰治を読んだときのような脳髄の痺れる錯角は生じなかった。それは車谷の「私小説」には甘味がなかったからだろう。ひたすら自分の地盤を掘り続け、出てくるのは胞子臭い土だけで、たまに奇態な地虫が姿を現すだけ。
しかし、それがむしょうに読みたくなる年齢というものがある、ひたひたと背後に迫ってくる破局の日に備えて。
「このごろハムだらソーセージたら言うもんが出来とうやろ、人間ほどむごいもんはあらへん、牛でも鶏でもあないなもんにしてしもて、平気で喰うて行くんやが。(「塩壷の匙」)」
私も全くそう感じているのだが、やっぱりおいしくいただいてしまうのである。本書も、まだ残されている平和な日常で堪能させてもらった。
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車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)
車谷長吉「人生の救い」を読了。車谷が朝日新聞の土曜別冊で担当していた人生相談「悩みのるつぼ」の車谷の担当分を抜き出してまとめた書。連載当時から、ファンで必ず目を通していました。車谷の回答にいつもびっくりさせられていました。でもそれが真実かもしれない、と思い始めてきたのも事実。本書で再読して確信しました。ですから本書は私にとって、「聖書」みたいな書なのです。手にとって読んでみてください。悩んでいる人や苦しんでいる人の救いになる成分が入っています。でもその成分は毒かもしれません。
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赤目四十八瀧心中未遂 [DVD]
世の中がインターネットだのデジタル革命だと大騒ぎしているこの世の中で、「心中未遂」を中心に据えた映画を撮ったという意気込みにまずは素直に拍手したいです。長い映画でしたが、僕はそれなりに楽しんで最後まで見れました。ATG映画のような雰囲気や訳の分からないモンタージュカットは無理に理解しようとしないで無視しましょう。その方が映画を楽しめます。確かに、演出的にこなれない部分や、俳優の演技が映画の流れから浮いていたりと、時々映画に没頭することを妨げる要素が多々ありました。しかし、社会からドロップアウトして心中に向かう二人が何かとてもリアルな存在感を持って、ある種の束縛から解かれて自由な存在に感じられて、魅力的でした。人間は純愛のような優しさに癒されているだけでは、厳しい人生の荒波は渡れない、人間が本来持つ力強さを取り戻さねばいけない。そんなことに気づかせてくれた映画でした。