パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い
死の代償を払わなければ自己の思想を表わせなかった時代、明治、大正、昭和の軍国政治の中で、激しく死んでいった人もいた。堺利彦は、その人たちとの交情の中で自己独特のポイントを守りながら、弾圧の世界を生きていった。堺利彦を再認識させてくれる著者の着眼はすばらしい感性である。著作途中で発覚したガンという病に打ち勝ったと言えるかどうかわからないが、この書を最後まで仕上げた生きざまに迫力を感じた。この時代が弾圧の時代で、今が平和だと思う人にはこの書の理解はなかなか難しいだろう。小沢一郎が何故に罪に問われ、同志から銃を突きつけられているのか・・・今まさに問題視されている政治状況がまさに戦前の弾圧史につながっているのが見えてくる。徳川の鎖国から幕末の異国船来航、明治の近代化、侵略、軍国化、思想弾圧、戦争、敗戦、アメリカ従属、経済破綻、外交の失敗・・・日本近代史の「貧しさ」を救う多くの人たちがいたのに、彼らを抹殺しながら進んできた日本の近代史、この著作は歴史の裏側を学ぶ一筋の光である。昨年死去された著者にに心から哀悼の意をささげます。著者の参考文献になかったが、宮本研の戯曲「美しきものの伝説」もお薦めしたい。
堺利彦伝 (中公文庫)
まさか堺利彦の伝記を新刊の文庫本で読むことになるとは思ってもみませんでした。
堺利彦といえば、日本で最初の探偵小説『無惨』を書いたり『鉄仮面』や『巌窟王』など数々の外国小説を翻案(原作を直訳ではなく意訳・創作する方法)して私たちが幻想・怪奇・冒険小説を読めるように種をまいてくれた黒岩涙香が創刊した日刊新聞『萬朝報(よろずちょうほう)』の記者として活躍し、たまたま大逆事件より早く逮捕されて難を逃れた後は、マルクス・エンゲルスらの『共産党宣言』の日本で最初の翻訳をはじめ、社会主義思想やロシア革命史や欧米文学の紹介のためなどに数多くの本を翻訳出版しただけでなく、日本社会党や日本共産党の結成に加わり、実際にも東京市会議員に当選して政治家になったこともあり、またエスペラント運動にも尽力した人物だったことは知る人ぞ知るところですが、どうして今なぜ堺利彦なのでしょうか。
そういえば、今でも実利的教養や教訓的人生論として、明治時代に書かれた福澤諭吉の『学問のすすめ』や『福翁百話』、勝海舟の『氷川清話』や西郷隆盛の『南洲遺訓』などを読む人もいるようですが、あるいは田中正造や中江兆民ならともかく、失礼ながらわざわざ堺利彦のそれも若い時代の自叙伝を読む人がはたしているのだろうかと思います。
どうやら、それはこの本の中で解説を書いている黒岩比左子の新しいアプローチによる再評価というものが原因しているようです。
何年ぶりかの再読ですが、たしかに今まで気づかなかったユーモアあふれる筆致で、私が知っている大杉栄や幸徳秋水や石川三四郎など同時代の誰よりも読ませる書き方というものを感じます。
本書と同時期に刊行後に52歳という若さで惜しくも亡くなった黒岩比左子の『パンとペン・・社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』によって、彼女は今まで誰も知らなかった堺利彦を発見して私たちに教えてくれたのです。
今までのあまり目だたない社会主義者としての存在だった堺利彦を、職につけず困っていた主義者たちに売文社という媒体を使って文章を書くという仕事を世話したり、その先駆として彼自らが書いたその才能は夏目漱石や森鴎外に注目され、黒岩涙香のむこうを張る貪欲さで膨大な翻訳本を、思想書だけでなく数々の名作小説を私たちに届けてくれたりという目の覚めるような活躍をした人として鮮やかに登場させてくれたのです。
堺利彦といえば、日本で最初の探偵小説『無惨』を書いたり『鉄仮面』や『巌窟王』など数々の外国小説を翻案(原作を直訳ではなく意訳・創作する方法)して私たちが幻想・怪奇・冒険小説を読めるように種をまいてくれた黒岩涙香が創刊した日刊新聞『萬朝報(よろずちょうほう)』の記者として活躍し、たまたま大逆事件より早く逮捕されて難を逃れた後は、マルクス・エンゲルスらの『共産党宣言』の日本で最初の翻訳をはじめ、社会主義思想やロシア革命史や欧米文学の紹介のためなどに数多くの本を翻訳出版しただけでなく、日本社会党や日本共産党の結成に加わり、実際にも東京市会議員に当選して政治家になったこともあり、またエスペラント運動にも尽力した人物だったことは知る人ぞ知るところですが、どうして今なぜ堺利彦なのでしょうか。
そういえば、今でも実利的教養や教訓的人生論として、明治時代に書かれた福澤諭吉の『学問のすすめ』や『福翁百話』、勝海舟の『氷川清話』や西郷隆盛の『南洲遺訓』などを読む人もいるようですが、あるいは田中正造や中江兆民ならともかく、失礼ながらわざわざ堺利彦のそれも若い時代の自叙伝を読む人がはたしているのだろうかと思います。
どうやら、それはこの本の中で解説を書いている黒岩比左子の新しいアプローチによる再評価というものが原因しているようです。
何年ぶりかの再読ですが、たしかに今まで気づかなかったユーモアあふれる筆致で、私が知っている大杉栄や幸徳秋水や石川三四郎など同時代の誰よりも読ませる書き方というものを感じます。
本書と同時期に刊行後に52歳という若さで惜しくも亡くなった黒岩比左子の『パンとペン・・社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』によって、彼女は今まで誰も知らなかった堺利彦を発見して私たちに教えてくれたのです。
今までのあまり目だたない社会主義者としての存在だった堺利彦を、職につけず困っていた主義者たちに売文社という媒体を使って文章を書くという仕事を世話したり、その先駆として彼自らが書いたその才能は夏目漱石や森鴎外に注目され、黒岩涙香のむこうを張る貪欲さで膨大な翻訳本を、思想書だけでなく数々の名作小説を私たちに届けてくれたりという目の覚めるような活躍をした人として鮮やかに登場させてくれたのです。